最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)3626号 判決 1954年3月11日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人沢辺金三郎の上告趣意第一点について。
所論は、違憲をいうが、その実質は、単なる法令違反、又は事実誤認若しくはこれを前提とする法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、職業安定法は、旧法とは異り産業上の労働力充足のためにその需要供給の調整を図ることだけを目的とするものではなく、広く職業の安定を図ることを大きな目的とするものであることは、夙に当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二五年六月二一日大法廷判決、判例集四巻六号一〇四九頁以下参照)、原判決の認容した本件第一審判決の認定した判示接待婦等を紹介したような行為が職業安定法六三条、六四条等の処罰規定に該当するものであることは、多言を要しないところであって、所論のごとく同法の適用外の自由に放任された業務であると解すべき理由を見出すことはできない。また、同法五条にいわゆる雇用関係とは、必ずしも厳格に民法六二三条の意義に解すべきものではなく、広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的、精神的労務を供給する関係にあれば足りるものと解するを相当とするから、第一審判決が証拠に基き本件郡山関係、飛田新地、名古屋中村新地、松島新地及び京都府下における各業者と本件各婦女との実際の関係を判示のごとく認定し、その関係が同法にいわゆる雇傭関係に当るものと判断し、原判決もこれを是認したのは正当であるといわなければならない。(なお、昭和二七年一二月一八日当法廷決定、判例集六巻一一号一三一九頁以下参照。)従って、原判決には、所論の法令違反も認められない。
同第二点について。
所論は、憲法二二条違反をいうが、原判決並びに原判決の認容した第一審判決は、被告人が有料の職業紹介を行い又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行ったことを処罰したのであって、婦女の純然たる接客婦となる職業の選択を不法としたものでないこと明白であるから、所論(一)の主張は、その前提を欠くものといわなければならないし、また、憲法二二条は、「公共の福祉に反しない限り」との制限があるのであって、職業安定法が右のごとき職業紹介を公共の福祉のため禁ずるもので憲法二二条等に違反しないことは、論旨第一点に引用した当裁判所大法廷の判決の趣旨とするところである、されば、所論(二)の主張も採用できない。
同第三点について。
所論は、判例違反をいうが、所論引用の名古屋高等裁判所の判例は、昭和二二年勅令九号施行後正当に認許された純然たる貸席業(待合を含む)、料理業又は特殊喫茶店並びに右営業に従事するいわゆる「接客婦」に関する判例であって、本件第一審判決が証拠により適法に認定した本件業者並びに婦女には適切でない。そして、原判決の正当であることは、論旨第一点で説明したとおりである。されば、所論は、結局原判決の判示に副わない事実関係を前提とするものであって、採用できない。
同弁護人の追加上告趣意第一点乃至第三点について。
所論は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって、同四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)